いましかみえない

自分の頭の中を可視化する自分のためのブログ。

二世界の永遠の0(ドラマ版・映画版を見ました)

遅ればせながら、永遠の0の向井ドラマ版と岡田映画版をようやく見ることができました。公開は映画の方が先で、評判も承知しておりましたが、ひとりで戦争映画を見ようという気にならないまま、ドラマ版が3夜にわたって放送され、あらゆる旬をすぎた頃に勧められて見ました。普段感情がない父親が映画版を見て声を出して泣いていたという話、ドラマ版を先に見ていた母は映画版を見て肩透かしを食らったという話を聞いていたのでどんなものかとさらに興味がわきました。

 

というわけで感想をば。ほぼ比較。

 

先にドラマ版、後に映画版を見ました。

ドラマ版はCMカットしても3夜合計6時間。映画版はDVDで2時間半。

ドラマ版では宮部の孫たちが宮部を知る元隊員たちに会いに行く過程がかなり綿密に描かれていました。そのために「宮部が臆病者である」という刷り込みは映画版より強かったと思いました。時間が長い分だけ描ける要素が増えるということでもあるのですが、代わりに「くどいな」と思う部分も少なからずありました。しかし、映画と異なりドラマはテレビで放送され、誰しも見ることができるものであるため、分かりやすさに特化する必要があるのだと気づきました。実際私はドラマ版を先に見たことで映画版を理解することができたと思います。台詞の数行で済ませてしまう映画版に代わって、ドラマ版では回想シーンとしてきちんと描かれていました。何回も見直して、逃していたシーンや台詞を拾ってやっと理解するような私のような人にはドラマ版が合っているのかもしれません。

逆にドラマ版にはなかった航空母艦が映画版には登場。CGを大量に用いた映画版は映像としてやはり大変美しい。出演者や演出はどうしてもドラマ版は映画版には勝てないかなあという印象です。そりゃあ、掛けてる時間とお金が段違いでしょうからね。

またドラマ版、映画版、同じ台詞でも言わせる役や場によって、ニュアンスが変わってくるのも面白いところでした。原作を読んでいないため、どちらが忠実で正しいのかなどは分からないのでただ比較することになりますが、健太郎が司法試験に失敗した年数、長谷川の負傷した腕、大石が松乃を探した年数など細かいところが異なっていて、どういう演出の違いなのか気になりました。宮部と松乃の関係性も、ドラマ版ではあまり言葉を交わさないけれど繋がった愛、映画版ではかなり親密な仲で、全然違った夫婦像でした。宮部が一度だけ家に帰った時に子供がいるのが映画版、いないのがドラマ版。ドラマ版は松乃が宮部の外套に綿を入れたり襟をつけるシーン、映画版は宮部が子供に会えて一緒にお風呂に入っているシーンが素敵です。ドラマ版では宮部は子供に一度も会えぬまま戦死するので、映画版は少しほっこりしました。

健太郎たちが大石にたどりつくまでの過程はやはり時間を掛けいろんな人をたどり少しずつヒントを得ていったドラマ版の方が驚きが強いです。映画版はさらっと行きついた感じ。でも、宮部がなぜ大石に託したのか、なぜ大石を選んだのかという点については映画版の方が説得力があるように思いました。大石が夢や将来を語り、そして宮部が妻と子の写真を見せる。宮部はいつその時が来てもいいように、家族を託す相手の目星をつけていたのかもしれません。

映画版で唯一残念だったのは松乃が景浦に守られたシーンを描かなかったこと。私が泣くまいと見ていたドラマ版で我慢しきれず涙が溢れたのは、景浦の「生きろ」のシーンでした。私は宮部が自分の代わりに大石を妻子のもとへ寄越したことを美談として受け取れませんでした。仲間を見殺しにしたとしても自分が生きて帰ることが家族にとって一番の幸せであると宮部を許せなかったのです。でもこのシーンで宮部が築いた人脈や彼の人徳によって彼の家族が守られたことを目の当たりにして、宮部の「死んでも帰ってくる」という言葉がようやく腑に落ちました。このシーンを映画版では松乃の台詞で済ませ、大石も健太郎たちも分からないまま終わらせてしまったことは残念でなりません。「分かる人にはわかる」ではなくてきちんと描いてほしかった。映画版の景浦役、田中泯さんもよかったのですが、ドラマ版の柄本明さんが上手かった。松乃の姿が景浦の脳裏にフラッシュバックして、健太郎たちに彼女の人生は幸せだったかと尋ね、健太郎の体を抱きしめる。映画版では抱きしめたシーンしかないのですが、やはりその前あってこそだと思うのでした。ドラマ版は若いころの景浦役が尾上松也さんで、一瞬誰だか分らなかったのですが、血気盛んな雰囲気がばりばり似合っておりました。

そして最後に映画版宮部役の岡田さんについて。一番印象的なシーンは大石が鹿屋基地へ行ったときに再会した宮部の姿でしょうか。教え子たちが毎日何人も目の前で死んでいく様を見届け、彼らを見殺しにしてそのうえで生きていることに悩まされている宮部。別人かと見まがうほどのやつれぶりでした。岡田さんは本当に役者さんなんだなと素直に思った瞬間でした。あとは声の緩急。妻や教え子に語りかけるときの優しい声と、叱るとき怒鳴るときの野太い声。声の使い分けに宮部の性格が現れていたように思います。岡田さんの代表作といえばなんになるのか分かりませんが、この作品は岡田さんが実力を持つ映画俳優であることを知らしめ、彼自身が受賞などで自信を持つことになったかもしれないので、きちんと見ることができてよかったと思います。

 

 

こんな感じでしょうか。原作も読んでいないのに映像化2作品を比較してみました。原作の文庫に挑戦してみようかな。また3人目の宮部に出会える気がします。映画とドラマ、どちらもよくできていて、お互いを補完するようになっていたとおもいます。どちらもおすすめします。個人的にはドラマの内容で映画をあのキャストスタッフで作ってほしかったなーなんて思ってしまいました。時間の制限やテンポ、流れ等もあるので難しいのは重々承知であります。

余談ですが、ドラマ版を見ていたら「ごちそうさん」を思い出していました。かっちゃんはこんなところにいたのかな、悠さんのお父さん、めいちゃんのお父さん、といちいち感じずにはいられなかったのです。また見返したい。

永遠の0を見て、鹿屋と知覧に行かねばと使命を感じてしまいました。是非近いうちに行きたいものです。